8/2  熱源 読了

直木賞受賞作。樺太=サハリンに住むアイヌの人と、ロシアに呑み込まれたポーランドの遺民である人の一生を描いた、ある意味大河小説。両者共、理由は違えど、自分の国を失って、民族の衰退、消滅を危惧しつつ、抗ったり順応したり苦悩して生きていく内容。

時は、日本の明治維新後から昭和初期、ポーランドはロシアに占領され、母国語が使用禁止になった時代。メインの舞台となるのは樺太で、戦争等の影響で日本になったりロシアになったりで、アイヌ等、土着の民族達は自分達の風習に加え、異なった文化の下で共存を余儀なくされていた。

共存と言えば聞こえが良いが、アイヌたち土着民族の人々は、両国から、未開の人、土人と蔑まれ、それぞれの国にいいように扱われていた。

それらの国々に対抗する為には、文明化=教育が必要という事で、アイヌ自ら学校の設立を進めていく。しかし、文明化する事は、すなわち民族としての誇りや文化が薄れて、古から伝わっている風習などが忘れられて行くのでは無いか、アイヌアイヌで亡くなるのでは無いかと言う疑問を持ち苦悩しながらも自分達の未来を探りながら生活している。

一方、ポーランド遺民の人は、ロシア統治下の皇帝暗殺の濡れ衣で、想像もつかないような拷問を受けた後、強制労働の為サハリンに移送され奴隷のような生活を余儀なくされ、そこで、アイヌとは別の土着民族と接触し、その生き様に触発されるのだが、ここでもまた、ロシアにいいようにされている民族には教育が必要とし、学校の設立に携わっていく。当然母国復興が生きがいではあるのだが、土着民族の生き方や考え方、色んなところで起こる戦争で、武力による復興に本当に意味があるのだろうかという疑問を持ち始める。

この二人を中心に、友情、家族愛が繰り広げられつつ、自分達の独自の文化をいかに引き継ぎいかに未来に残すべきなのかを問うていると感じた。

アイヌイヨマンテ(熊祭り)の状況とか、樺太の極寒の生活とか、肌で感じられるような文章で、自然の描写もくどくなく、それでいてわかりやすい表現で語られており、読みやすい本だった。

最初の方は生い立ちとかだったのでちょっとかったるく感じたが、後半の人の繋がりを読むとそれも伏線だったんだと気づいた。先代の思いが意図せず子孫につながる様は感動ものであった。

学校を設立する時にアイヌの人が、何で学校が必要なのかを問答した時の会話、「なんで地理なんか必要なんだ」との問いの答えは優れもので心が痺れてしまった。

「知る世界の広さは、人生の可能性の広さだ。」

ただ、やはりカタカナの人名は自分は苦手なので読むのに苦労した。

とは言いながら、さすが直木賞作品、素晴らしい、久しぶりに読み応えのある小説を読んだ感あり。

 

直木賞の直木って誰?って初めて疑問に思ったので調べてみた。直木三十五(サンジュウゴ)っていう作家だそうだ。代表作は知っているものは無かった。いつか読んでみよう。ちなみに三十五は年齢からとったペンネームなんだそうだ。