9/18 絶唱 湊かなえ 完読


楽園、約束、太陽、絶唱の4章の小説。
最初の楽園は、双子の妹が幼少の頃、阪神淡路大震災で亡くなり、生き残った姉が、亡くなった妹の人格として生活し、その清算のため、トンガに行くと言う内容で、その内容としては重い物があり、ここからどう展開していくのだろうと期待して次の約束へ進んだ。
ところが、この約束では、楽園の主人公は全く出ないで、トンガの風土記の様な感覚で、楽園の主人公が日本で出会った人の話で、トンガに協力隊として数年過ごした事、何故トンガに来たのかという事をトンガでの生活を中心に記されている。
トンガに来た理由が阪神淡路大震災だった事がキーポイントであろう事は判ったが、ここまで読んで、まだ、最初の主人公とこれからどう関わっていくのだろうと、さらに期待をして、太陽に入っていった。
太陽では、楽園の主人公がトンガで出会った母と娘が主人公となり、シングルマザーになった経緯や、親との縁を切ってしまって娘を育てていく苦労と苦悩が記されているのだが、楽園の主人公は一切出てこない。ちなみに、この母も阪神淡路大震災の被害者である。
本の題名にもなっている、絶唱では、上記の主人公達がトンガでお世話になった、ゲストハウスを経営している方へ宛てた手紙文で綴られているのだが、書いている人が誰なのかサッパリ判らず、後半まで、前の主人公達と全く関係ない話しが進んでいく。ここまでで来てようやく、ああ、オムニバスなんだ、オムニバスで震災被害の事とトンガの良さを伝えたいだけなんだな、と判断して、ちょっと残念な気持ちで、期待感もかなり下がってしまった。
でも、さすがは湊かなえさん。この絶唱での手紙の主が、この小説を書いた本人であり、この方もまた、震災の被害者で、心に深い傷を持ち、震災の事は心の内に頑なに沈めて居たのだが、小説家になってある程度売れた後、トンガでお世話になった手紙の宛先の方に、もう、震災の事を小説にしても良いのではないかとアドバイスを貰って書いた物が、先の楽園、約束、太陽と言う、ストーリー。この小説家が湊さん本人かどうかは判らないが、もし、本人でないなら、何という想像力だろう。凄いとしか言いようがない。殺人のない推理小説を読んだ感あり。
震災に限らず、事故なども含めて、物理的に害を受けた人達には誰もが同情するが、心に害を受けた人は、殆どの人が同情もしてくれない。だったら被災した事を語るのはやめようと思うのは必然なのだろう。そうなると、どんどん心が深みにはまっていく。そんな人がごまんと居るのだろう。
この様な発想は皆無であった。なんか目覚めさせてくれた思いがする。
目の前で、人が死んでいく。何でこの人が?何で自分じゃ無いんだろう?さらに、自分を助ける為に死んでしまったら、その思いは、果てしなく深く深く、一生、その事を背負って行く事になる。
それに対して、周りは、あの人の代わりに生きなきゃとか、生き残って良かったとか、死んだつもりで頑張んなきゃとか、無責任に言ってくる。
そんな状況で、それでは自分の思いはどこにぶつければ良いのだろか、心から叫びたい、それこそが絶唱と言うものなのだろう。
先日読んだ、死ぬんじゃねーぞとか日航機墜落事故とか、最近は、ノンフィクションの社会性のある物ばかり読んでいる感あり。